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練習時間を減らしたら強くなった 週休2日で甲子園に行くチームの秘密

「もっと練習しないと勝てない」と言われた監督の決断

夏の大会が終わった翌週、ある県立高校の監督は部員を集めてこう告げました。「来年から週2日は完全休養にする」。25年間、休みなく練習してきた監督の言葉に、選手たちは戸惑いました。保護者からは「練習時間が減って大丈夫ですか」という声も届きました。

しかし翌年の夏、そのチームは県大会ベスト8に進出しました。前年は初戦敗退だったチームです。監督は言います。「練習時間を減らしたから強くなったんです」。

なぜ、練習時間を減らすと結果が出るのでしょうか。

練習時間が長いほど強い、は本当か

高校野球の現場では長い間「練習時間=強さ」という考え方がありました。朝練習、放課後の練習、土日も一日中グラウンドにいる。それが当たり前でした。

しかし、データを見ると違う景色が見えてきます。全国高等学校体育連盟の調査によると、週の活動時間が長いほど競技成績が良いとは限らないことが分かっています。むしろ、週16時間以上の活動をしている部活動よりも、週12〜16時間程度の部活動の方が全国大会出場率が高い傾向があるのです。

なぜでしょうか。理由は2つあります。

1つ目は「疲労の蓄積」です。成長期の体は大人よりも回復に時間がかかります。筋肉や骨の成長軟骨は、激しい運動の後24時間では完全に回復しません。休まずに練習を続けると、昨日の疲労の上に今日の疲労を重ねることになります。これが肩肘の障害や、パフォーマンスの低下につながります。

2つ目は「集中力の限界」です。人間の集中力は90分が限界と言われています。長時間の練習では、後半はただボールを追っているだけになりがちです。ミスが増え、怪我のリスクも上がります。質の低い練習を長時間続けるよりも、短時間で集中した練習を繰り返す方が、技術の定着率が高いのです。

週休2日で甲子園に行ったチームの練習内容

実際に練習時間を減らして結果を出しているチームは、何をしているのでしょうか。

花咲徳栄高校(埼玉)は、週1日の完全休養日を設けています。岩井隆監督は「休むことも練習のうち」と話します。同校は2017年に甲子園で優勝しました。

敦賀気比高校(福井)も、週1〜2日の休養日を設定しています。東哲平監督は「疲れた状態で練習しても意味がない。休んで回復させることで、次の練習の質が上がる」と語ります。

これらのチームに共通するのは「練習時間を減らした分、練習の質を上げている」という点です。

具体的には以下のような工夫をしています。

1. 練習メニューの明確化

「今日は何のための練習か」を選手全員が理解している状態を作ります。ただノックを受けるのではなく、「ゴロの一歩目を速くする」「送球の精度を上げる」など、目的を明確にします。

2. 時間を区切る
1つの練習メニューを15分や20分で区切ります。ダラダラと続けず、短時間で集中させることで、選手の意識が途切れません。

3. 選手に考えさせる
監督が一方的に指示を出すのではなく、「今のプレーで何が良かったか、何が悪かったか」を選手自身に考えさせます。自分で考えたことは記憶に残りやすく、次の練習に活かされます。

4. データを活用する
投球数や球速、打球の飛距離などを測定し、数字で成長を確認します。感覚だけでなく、客観的なデータがあることで、選手のモチベーションも上がります。

「でも、うちは県立だから」という声に答える

ここまで読んで、「私立の強豪校だからできるんでしょう」と思われた方もいるかもしれません。

確かに、設備や指導者の数では私立校に分があります。しかし、練習時間の短縮は県立校こそ取り組みやすい改革です。

理由は3つあります。

1. 保護者の負担が減る
練習時間が短くなれば、送迎の回数も減ります。土日の拘束時間が減ることで、保護者の理解も得やすくなります。

2. 顧問の負担が減る
教員の働き方改革が進む中、部活動の時間短縮は必須です。顧問が疲弊していては、良い指導はできません。休むことで、顧問自身も次の練習への準備ができます。

3. 選手の勉強時間が確保できる
県立校の選手は、進学も視野に入れています。練習時間が短くなれば、勉強時間も確保できます。文武両道を実現することで、選手の将来の選択肢が広がります。

実際に、ある県立高校では週休2日にしたことで、部員の学業成績が上がり、保護者からの信頼も厚くなったという報告があります。

明日から試せる「練習時間短縮」の3ステップ

では、どうやって練習時間を減らしていけばいいのでしょうか。いきなり週休2日は難しいかもしれません。まずは小さく始めることが大切です。

ステップ1:月に1回、完全休養日を作る
まずは月に1回、グラウンドに来ない日を作ってみてください。選手には「体を休めることも練習」と伝えます。最初は不安かもしれませんが、翌週の練習で選手の動きが良くなることを実感できるはずです。

ステップ2:1日の練習時間を30分短くする
3時間の練習を2時間30分にします。減らした30分は、ダラダラしていた時間や、準備・片付けの無駄な時間を削ります。選手に「今日の練習は2時間半で終わる」と最初に伝えることで、集中力が上がります。

ステップ3:選手に「今日の練習の目的」を聞く
練習の最初に、選手に「今日は何を意識して練習するか」を発表させます。自分の言葉で目的を話すことで、意識が変わります。監督が一方的に話すのではなく、選手に考えさせることが質の向上につながります。

この3ステップを3ヶ月続けてみてください。選手の表情、動きの質、怪我の頻度が変わってくることを感じられるはずです。

休むことを恐れない勇気

「休んだら負ける」という考え方は、もう古いのかもしれません。

スポーツ庁の調査では、週2日以上の休養日を設けている部活動の方が、競技成績が良い傾向があることが分かっています。また、日本臨床スポーツ医学会は、成長期のスポーツ障害を防ぐために「週に1〜2日の完全休養日」を推奨しています。

休むことは、サボることではありません。次の練習のために体を整えること、心をリセットすること、野球以外の時間を持つこと。それらすべてが、選手の成長につながります。

あるチームの監督は言います。「休養日を作ったら、選手が自主的に野球ノートを書くようになった。グラウンドにいない時間に、自分の野球を見つめ直しているんです」。

練習時間を減らすことは、選手を信じることでもあります。「監督がいなくても、選手は自分で考えて成長できる」という信頼です。

グラウンドの外にも野球がある

25年間、毎日グラウンドに立ってきた監督の経験は、本物です。その積み重ねがあるからこそ、今のチームがあります。

ただ、選手の体は変わっているかもしれません。昔よりも体格は良くなりましたが、外で遊ぶ時間が減り、基礎体力は落ちています。スマートフォンの普及で睡眠時間も短くなっています。同じ練習量でも、疲労の蓄積は昔より大きいのです。

練習時間を減らすことは、野球を諦めることではありません。むしろ、野球を続けるための選択です。怪我で選手生命を終わらせないために。勉強との両立で野球を辞めさせないために。顧問が疲弊して部活をやめないために。

週休2日で甲子園に行くチームは、もう珍しくありません。大切なのは、グラウンドにいる時間の長さではなく、そこで何を学ぶかです。

明日、少しだけ練習時間を短くしてみてください。選手の顔を見てください。いつもより目が輝いているかもしれません。