コーチングは教えることじゃない 選手を目的地まで運ぶ手段という考え方

コーチの語源は「人を目的地まで運ぶ手段」
あなたは選手に何を教えていますか。
バッティングフォーム、守備位置、走塁判断。技術を伝えることは確かに大事です。でも、それだけが指導者の役割でしょうか。
「コーチ」という言葉の語源を知っていますか。中世ハンガリーの「コチ」という言葉に遡ります。コチとは「短時間で旅をする洗練された高級な移動手段」を意味していました。つまり、コーチングとは「人を目的地まで連れて行く手段」であり、最善の、もっとも洗練された旅の手段を意味しているのです。
自然体験・野外活動における指導者育成の研究では、コーチングには4つの重要要素があると整理されています。それは「変化」「不安」「関係」「学習」です。
変化とは、選手がより良いものを目指すこと。コーチは選手の「思考」「感情」「行動」を変えることに働きかける必要があります。不安とは、選手が自分の到達したい地点について明確に把握していないが、まだそこにたどり着いていないことはよく理解している状態。関係とは、コーチと選手が信頼関係に基づく強力なパートナーシップを形成すること。そして学習とは、特定の技能を学ぶことと、問題を解決する人になる方法を学ぶことの2種類があります。
この定義を読むと、私たちが日々グラウンドでやっていることとは少し違うかもしれません。
教え込むのではなく、選手を運ぶパートナーになる
日本スポーツ協会が公表している「モデル・コア・カリキュラム」では、グッドコーチに求められる資質能力として「プレイヤーの自立やパフォーマンスの向上を支援するために、常に自身を振り返りながら学び続けることができる人」と定義されています。
ここで注目したいのは「支援する」という言葉です。教え込むのではなく、支援する。選手が自分で考え、自分で決め、自分で行動できるようにサポートすることが、コーチの役割だと明記されているのです。
また、同カリキュラムでは「プレイヤーの生涯を通じた人間的成長を長期的視点で支援することができる人」という人物像も示されています。目の前の試合に勝つことだけではなく、選手が野球を離れた後も成長し続けられる力を育てることが求められています。
現実には、私たちは「教えすぎている」かもしれません。バッティングフォームを細かく指摘し、守備位置を指示し、走塁判断を事前に決めておく。選手が自分で考える余地を残していないことがあります。
「PATROL」で選手との関わり方を変える
日本スポーツ協会が示す「求められるスポーツ指導者像」では、具体的な関わり方として「PATROL」という6つの心構えが紹介されています。
Process(結果ではなく、経過を重視する):どんな結果であろうとも、結果にいたるまでの努力や行動があったはずです。いい結果が出た時も悪い結果が出たときも、選手と一緒に原因を考えてみましょう。
Acknowledgment(承認する):選手の意志を尊重し、その行動や言動を承認することが重要です。自らの存在を認められることが、選手にとって大きな励みとなります。
Together(一緒に楽しみ、一緒に考える):何よりも指導者自身が楽しくなければ、選手も楽しくありません。選手とともにスポーツを一緒に楽しみましょう。
Respect(尊敬し、尊重する):年齢、性別に関係なく、すべての人を尊敬する気持ちを持ちましょう。10人いれば10人の個が存在します。選手の個性を尊重しましょう。
Observation(よく観察する):選手をよく観察しましょう。体調は万全か、悩み事はないだろうか。見ていなければわかりません。「見られている」ことで選手は安心するのです。
Listening(話をよく聴く):自分が話すより、選手の話を聞く時間を多く取るように心がけましょう。指導者が「なってほしい選手」ではなく、選手自身が「なりたい」自分を意識し、気づかせるためには、選手自身にたくさん話をさせることが大切です。
この6つの頭文字を取って「PATROL」。グラウンドを巡回するように、選手を公平に見てまわり、誉めて、夢中にさせて、可能性を引き出すという意味が込められています。
明日のグラウンドでできること
明日の練習で、一つだけ試してみてください。
練習後、選手を一人呼んで「今日の練習で一番うまくいったことは何だった?」と聞いてみる。そして、選手が答えたら「どうしてそれがうまくいったと思う?」と続けて聞いてみる。
これだけです。あなたが答えを教えるのではなく、選手に考えさせる。選手が自分の言葉で話すのを待つ。それがコーチングの第一歩です。
指導者は技術を教えるだけの人ではありません。選手を目的地まで運ぶパートナーです。選手が自分で考え、自分で決め、自分で行動できるようになるまで、一緒に旅をする存在です。
あなたのチームの選手は、どこに向かおうとしていますか。そして、あなたはどんな手段で彼らをそこまで運ぼうとしていますか。
明日のグラウンドで、一つの問いかけから始めてみてください。それが選手との新しい関係を築く第一歩になるかもしれません。