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体脂肪率はどの測定法でも推定値 見るべきは変化の向き

「体脂肪率○%を目指す」指導の前に確認すべきことがある。測定方法が違えば値も変わり、すべては推定値にすぎない。4つの測定方法の特性と現場での正しい数値の使い方を論文から解説する。

5分で読める出典 8件BARREL編集部
「体脂肪率の数字は正確」という思い込みを疑え――測定方法で値が変わる推定値の正しい使い方

この記事の要点

  • どの測定方法も、値は「推定値」である
  • 4つの測定方法とそれぞれの限界
  • 測定の意味は「絶対値」でなく「変化の追跡」にある
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練習後に体組成計に乗り、昨日より体脂肪率が0.5%上がったと悩む——そんな数字を毎日気にしているアスリートは多い。しかし、その値が「脂肪量を正確に計測した結果」かどうかは、実は保証できない。

どの測定方法も、値は「推定値」である

国立スポーツ科学センター(JISS)が公開するウエイトコントロール指導書はこう記している。「体脂肪率を測定する方法はいくつかあり、それぞれの測定原理や特徴によって得られる値は異なります。いずれも推定値ですので、どの方法が正確であるかはわからないのが現状です」(体重階級制競技のウエイトコントロール, JISS)。また、異なる方法で測定された結果を比較する場合には注意が必要であり、同じ方法で測定された結果で比較することが求められるという指摘も、スポーツ栄養の研究で繰り返し示されている(日本スポーツ栄養学会誌 vol.16)。

4つの測定方法とそれぞれの限界

生体電気インピーダンス法(BIA)

市販の体組成計の大多数がこの方式を採用している。身体に微弱な電流を流し、電気抵抗(インピーダンス)から体脂肪量と除脂肪量を推定する。操作が簡便で技術を要しないが、運動・食事・飲水・月経周期・体位・断食などが全身水分量と電解質濃度を変動させ、測定値に影響を与えることが明らかになっている。同日測定における体脂肪率の変動係数(CV値)は、絶飲食条件で女性1.7±1.0%・男性2.5±1.1%に達するという報告がある(生体電気インピーダンス法, J-Stage)。日常的に高強度トレーニングを行うアスリートは一般成人と体組成・電気特性が異なるため、タニタは週12時間以上のトレーニングを行う選手には専用計算式を用いる「アスリートモード」での測定を推奨している(タニタ 体組成計の測定項目の見かたについて)。

皮下脂肪厚法(キャリパー法)

複数部位の皮下脂肪の厚さをキャリパーで測定し、推定式に代入して体脂肪率を算出する。皮下脂肪厚と体脂肪率の相関係数はr=0.7〜0.9と比較的高いことが報告されているが、皮下脂肪の分布は性別・年齢・身体活動量・競技種目によって大きく異なり、測定者の技術も結果に影響する。日本人を対象とする場合には長嶺・鈴木(Nagamine & Suzuki)の推定式がよく用いられ、上腕背部と肩甲骨下角部の皮下脂肪厚から体密度を推定する(アスリートの急速減量時のエネルギー負債量, 大阪体育大学)。機器さえあれば場所を選ばないという現場での利点がある一方、測定者の習熟が不可欠な点は留意が必要だ(JISS)。

体密度法(水中体重秤量法・BOD POD)

アルキメデスの原理を応用し、大気中と水中の体重差から体積を算出して体密度を求め、Brozek(1963)の推定式で体脂肪率を計算する。水中体重秤量法はスポーツ医学における体脂肪率測定のスタンダードとされてきた方法だが、最大呼気位での測定精度や残気量の補正が必要なうえ、専用設備が不可欠なため、多くの現場では導入が難しい(慶應義塾大学スポーツ医学研究センター)。

二重エネルギーX線吸収法(DXA)

2種類のX線を照射して骨・脂肪・除脂肪量を推定する医療用機器。骨格筋量指数(SMI)や四肢骨格筋量まで算出できるが、医師の管理のもと放射線技師が測定する必要があり、研究・医療施設外での利用は限られる(JISS)。

測定の意味は「絶対値」でなく「変化の追跡」にある

激しいラグビートレーニングを行う集団を縦断的に追った研究では、トレーニング群(事例群)ではすべての測定部位で皮下脂肪厚が有意に減少し、体脂肪率・脂肪重量でも第1期から第2期にかけて有意な減少が確認された。一方、トレーニングを行わない対照群では四肢部では減少が見られたものの、体幹部(臍上部を除く)では有意差が見られず、体脂肪率・脂肪重量にも有意差が生じなかった(若年運動選手の体脂肪量に関する研究, 民族衛生)。体脂肪率測定の真の意義は「○%という目標値を達成したか」ではなく、同じ方法・条件で継続的に測定することでこうした変化を捉えることにある。

JISSのガイドブックは測定の注意点として、①同じ測定方法・同じ機器を使う、②測定タイミングをそろえる(早朝排尿後・練習前など)、③服装をそろえる——の3点を挙げている。さらに、体重・体脂肪率は前日の練習・食事・排便状況で増減するため、日次の変動に一喜一憂せず1週間単位で傾向を確認することが求められている。

「目安の数値を下げること」だけを目標にするリスク

女子長距離選手を対象とした栄養サポートの報告では、身長157.7cm・体重40.0kg・体脂肪率10.8%という体組成で原発性無月経と診断された15歳選手の事例が示されている。また、体組成を考慮しない過度なやせ願望と減量行動はパフォーマンスに必要な骨格筋量の減少につながる危険があることも、同学会の研究で指摘されている(日本スポーツ栄養学会誌 vol.13)。体脂肪率の目安値を追い求めるあまり除脂肪体重(筋肉・骨・内臓の総和)まで落とすリスクは、特に成長期の女子選手において留意すべき点だ。

※ここからは編集部の推定・示唆です。競技・性別・年齢によって適正な体脂肪率は異なり、ある数値が普遍的な「理想値」になるわけではない。指導者にとって実用的なアプローチは、選手個人の体脂肪率と除脂肪体重を同じ方法・同じ条件で縦断的に記録し、その変化とパフォーマンス・体調の関係を照らし合わせることではないか。「何%を目指すか」より「変化がパフォーマンスにどう影響するか」を問う姿勢が、体組成測定をトレーニングに活かす本来の使い方だ。

測定機器の精度がどれほど高まっても、体脂肪率の値はあくまでも推定値である。その前提を指導者と選手が共有することが、体組成管理を数字ではなく身体の変化として理解する第一歩になる。

参考文献

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