チームビルディングが「関係性を整える手段」にとどまらず、選手が自分でも気づいていなかった潜在的資質に出会う機会として機能するメカニズムを、研究知見と指導実践の両面から考察する。
普段おとなしかった選手が、2週間で「まったく別人」になった
公益社団法人日本プロサッカーリーグの常勤理事・佐伯夕利子氏は、ビジャレアルCFの育成現場でこんな場面に立ち会った。小学生チームで2週間ごとにキャプテンマークを持ち回るワークショップを行ったところ、普段ほとんど意見を言わない選手が、マークを受け取った期間にまったく異なる一面を見せたのだ。
「アプローチが違えば、随分と違う発見が広がっていたのに、私たちができていなかっただけだったと気が付きました」と佐伯氏は語る(TORCH)。では、なぜ「場を変える」「関わり方を変える」だけで選手は変わるのか。近年の研究が、そのメカニズムを具体的な概念として示し始めている。
競技場面では「見えなかった」資質が出てくる理由
筑波大学・東京家政学院大学・NPO法人やまぼうし自然学校の研究グループは、プロサッカーチームの指導者がASE(Action Socialization Experience:自然環境でのアドベンチャー活動を通じたチームビルディング)を実施した経験を、Modified Grounded Theory Approachを用いて分析した(佐藤冬果・渡邉仁・大友あかね・坂本昭裕ら、日本体育・スポーツ・健康学会誌)。
指導者たちが共通して認識したのは、「個人の見えていなかった資質が引き出される」という変化だった。同論文が引用する先行研究は「課題の種類や性質が変わると、発揮する能力の種類やレベルが変わる」と指摘している。競技とは異なる性質の課題に取り組むことが、試合や練習の文脈では現れにくい潜在的な資質の表出を促す契機になるという論理だ。
同研究では、ASEの遊びの要素が「子どものような感情の表出」を引き出すことも確認された。トップアスリートはプロとしての自己を保つため、日常的に防衛的な自我を機能させている。ASEはその防衛を緩和し、本来の自己や素直な感情の開示を促す可能性があると研究者たちは考察している。自然環境での「身体を通じた学び」と「リスクがある」挑戦という特性が、複数の指導者に「眠っているDNAが起きる」という感覚をもたらしていた。
「指示」が選手の考える機会を奪っていた
日常の指導でも、同じ構造は起きている。佐伯氏は、ビジャレアルで「問いかけ」を中心に据えた指導に移行した経緯をこう振り返る。「指示を出すことで、私たちは選手たちが自分で考える機会を奪っていたんです。先に正解を教えることで、失敗する機会も奪っていた」(TORCH)。
指示の代わりにオープンクエスチョンを投げかけることで、選手が自分で思考し行動するための「余白」が生まれる。その余白が、指導者自身も知らなかった選手の一面を可視化する。「おとなしいと思っていた子がものすごくサッカーをよく知っていたり、周りがよく見えていたりする」——これは選手が急変したのではなく、指導者が「見ていなかった」だけという指摘でもある。
チームビルディングが最も効く側面、効きにくい側面
ASEや問いかけ指導が選手の潜在資質を引き出す効果が期待される一方で、チームビルディング全般には効果が及びやすい側面と限定的な側面がある。複数の研究を統合した分析によれば、チームビルディングは感情的・プロセス的なアウトカム——信頼関係の構築、協力体制の整備、コミュニケーションの改善——において特に大きな効果を示す。一方、知識の共有や専門性の向上といった認知的な側面への効果はやや限定的で、その部分には別の取り組みが必要になる可能性がある(ビジネスリサーチラボ)。チームビルディングを構成する4要素(目標設定・対人関係・問題解決・役割明確化)のうち、目標設定が最も高い効果を示したことも報告されている。
また、チームの規模が大きくなるほど介入の効果が低下する傾向も確認されており(ビジネスリサーチラボ)、「チームビルディングさえやれば変わる」という前提には注意が必要だ。効果の大きさは、チームの規模や目的、アクティビティの設計によって変わる。
「競技の文脈だけ」で構築された関係性の限界
ASE研究が示す、もう一つの重要な視点がある。競技場面だけで構築された関係性は、競技の文脈の中でしか機能しない。一方でASEを通じて形成される関係性は多面的であり、それが競技場面でのチームの凝集性にもつながる可能性があると同研究は考察している(佐藤冬果ら)。変革型リーダーシップとチームの凝集性がチームパフォーマンスを高める関係を検討した研究(ResearchGate)や、指導者への信頼がチームパフォーマンスと関連することを示した研究(ResearchGate)とも、この知見は方向性として整合している。
※ここからは編集部の推定・示唆です。指導者にとって実践的な問いは、「どんなアクティビティをするか」より先に「選手が自分でも知らない自分に出会える設計になっているか」という点だ。競技外の文脈、防衛が緩む場面、問いかけによる余白——これらは規模や予算に関係なく、日常の指導の中に意図的に組み込める要素だ。
チームビルディングは、関係性を整える手段である以前に、選手が「自分でも気づいていなかった自分」に出会う機会として機能する可能性がある。その視点が加わるとき、指導の射程は競技技術の枠を超えていく。
参考文献