チームビルディング

信頼のない「ほめ」は逆効果 チーム初日が関係を決める

山浦一保教授の調査は「信頼なきほめ言葉は逆効果になる」と示す。指導技術より信頼が先であり、かつ信頼形成の鍵はシーズン初日の行動にある。チームの出発点の設計が問われる。

4分で読める出典 3件BARREL編集部
a group of baseball players standing next to each other on a field

この記事の要点

  • 積極的に声をかけているのに、なぜ届かないのか
  • 信頼なき「ほめ」は逆効果になる
  • 「感情的信頼」が心理的安全性をつくる
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積極的に声をかけているのに、なぜ届かないのか

チームに熱心に声をかけ、ほめ言葉を惜しまない指導者がいる。それでも選手たちのプレーに迷いが消えず、コミュニケーションが表面的なままのチームがある。働きかけの量は十分なのに、なぜ言葉が届かないのか。

信頼なき「ほめ」は逆効果になる

立命館大学スポーツ健康科学部の山浦一保教授は、複数の大学・高校のアメリカンフットボールチームとラグビーチームを対象に、指導者と選手の関係を1年にわたって調査した。その結論は明快だ。

「ほめる、叱るという行為以前に重要なのはその根底に信頼関係があるか否か。信頼関係がないとほめ言葉が相手の心に届かないばかりか逆効果になる場合があります」(立命館大学 RADIANT)。

「いいチームだな」と感じるチームの指導者は、選手に積極的に声をかけ、コミュニケーションを欠かさない。そうした関係が先にあるからこそ、時に厳しい指導を受けても選手がそれを素直に受け入れられるようになるという。指導技術を磨く前に、信頼がある。これが前提条件だ。

「感情的信頼」が心理的安全性をつくる

信頼といっても、その中身は一様ではない。組織心理学では「感情的信頼」という概念が注目されてきた。長期的な人間関係をもとに形成された「ポジティブ期待」と「リスクを受け入れる意欲」から生まれる信頼であり、「この人なら弱みを見せても大丈夫」という感情面から育つ。組織へのコミットメントやエンゲージメント、そして心理的安全性の醸成には、この感情的信頼が有効とされる(「信頼をつくるということ」支援対話研究第8号)。

心理的安全性とは、E・シャインらが提唱し後に発展した概念で、「このチームでは率直に意見を伝えても対人関係を損なう心配はない」という信念が共有された状態を指す。Googleが実施した社内分析プロジェクト(Team Aristotle)では、効果性の高いチームを形成する最も重要な要素として、この心理的安全性が挙げられている。

初動が「アンカー」になる

信頼を築くタイミングもまた、重要な意味を持つ。異なる国に住む大学院生が仮想チームを組み、6週間にわたってオンラインでウェブサイト開発に取り組んだ研究では、プロジェクト初期のやり取りが信頼の方向性を決定づけていた(ビジネスリサーチラボ)。

一貫して高い信頼を維持したチームは、開始直後に活発な自己紹介を行い、仕事以外の個人的な情報を交換して人間的なつながりを築こうとしていた。タスクに入ってからは、互いの貢献に対して具体的で心のこもったフィードバックを返し、問題にも冷静に対処した。一方、信頼が低下したチームは、雑談からタスクへの移行に失敗し、役割が曖昧なまま時間が過ぎるか、一人のメンバーが強引に物事を進めて他の意欲を削ぐ場面が観察された。

さらに重要な発見がある。プロジェクト初期に形成された「この人を信頼しよう」という意志は、その後の信頼判断にも統計的に有意な正の影響を与え続けていた。最初の印象が「アンカー」として機能し、後の行動情報を解釈するフィルターとして残り続けたのだ。チーム初日に何が起きるかは、その後の数か月に比べて、不釣り合いなほど大きな影響力を持つ可能性がある。

プロセスを見る、全員に関わる

山浦の調査はさらに、「ほめどころ」の重要性を示す。選手の努力したプロセスを見てそこをほめることがポジティブな効果につながるが、日々の取り組みを把握していなければプロセスをほめることはできない。観察し、記録し、一人ひとりの努力を知ること——それが信頼の土台をつくる働きかけの出発点となる。

また山浦は、試合に出られない補欠選手がチームにどれほどコミットしているかも、チームの強さに影響を及ぼしている可能性を指摘する。信頼のある組織づくりは、スターティングメンバーだけへの働きかけでは完結しない。

※ここからは編集部の推定・示唆です

これらの知見を現場に応用するならば、シーズン初日や初回ミーティングの設計に意識を向ける価値がある。仕事以外の個人情報を交換する時間の確保、役割の曖昧さを早期に解消する対話、互いの取り組みへの具体的なフィードバックを返す習慣——これらは信頼形成の「アンカー」を良い方向に設定する行動として考えられる。「信頼は時間が解決する」と待つのではなく、最初の動きから設計できるものとして捉え直すことが、チームの出発点を変えるかもしれない。

チームスポーツにおいて技能や運動能力以外の要素が競技力に大きく影響するという山浦の観察は、信頼を「あれば望ましいもの」から「指導が機能するための前提条件」へと位置づけを変える。指導の言葉が届く土台をつくることは、指導の質を高める以前に解決すべき課題であり、それはシーズンの最初の日から、すでに始まっている。

参考文献

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